雨の物語

ちょっと前、志の輔師匠の「柳田格之進」を聴く。あんなに客席が緊張感に包まれた高座を聴くのは初めて。静寂、700人の客がみんな固唾を飲んでいる。涙がとめどなくこぼれ落ちる。こんな場面で嗚咽は出してはならない。ぐっと堪える。そして、当然のカーテンコール。いい経験をした。至福のときだ。
行きも帰りも雨。涙雨か。事情で非常に感傷的になっていた。だからよけいに「柳田格之進」が心にしみたのか。いや、そんなことがなくとも、もちろん最高級の高座なんだけど。タイミングがタイミングなのだ。
雨だけど、早く家に帰りたくない。戸外の空気を吸っておきたい。そんなとき、梅田でアイリッシュミュージック。路上演奏の前でしばらく居座った。
軽快に流れるバイオリンとギターの音色。どこのお国の民謡も好きだ。民謡は庶民の生活に密着している。綿々と受け継がれる人々の営み。日本人は自分の国の民謡をないがしろにしているなぁと常々思っている。民謡の旋律を大切にして今を歌っているミュージシャンがいるのは、沖縄や奄美だけなんじゃないか。
聴いていて思った。人々の生活は続いていく。朝が来て、夜が来て、夜が明けてまた新しい朝が来る。泣いたり笑ったり、続いていく。雑踏の中でも、例え雨の中でも変わりなく。また、涙がこぼれ落ちる。よう泣くなぁ。長い時間聴いていたので、バンドの方も喜んでくれた。
後日、リーダーの方にメールを送ったら、わたいが帰ったあとに一騒動があったと返ってきた。お巡りさんが来て、通行人の邪魔になるから、もう二度とするなと誓約書を書かされたんだと。面白いのは、歩行者、特に車椅子の人に迷惑やろと言われたこと。思わず「今さっきまで車椅子の人が喜んで聴いてくれていた」と言い返しそうになったんだって。
こういうことがあるから人生はおもろい。