赤い風船

わたいは骨のない動物が苦手だ。つまめばグニュッといってしまいそうなのが、なんとも気色悪いといおうか恐いといおうか。芋虫、毛虫、ミミズに代表される虫の類い。物心がついた頃からそういうのはあったんだろう。ラサール石井さんは、ここから落ちたら命がないと思ったら、飛び降りたくなる衝動に駆られる癖があるらしいが、わたいの場合は、ここで腕を上げたらあかんと思ったら、ほんまに腕が上がってしまう。子供のとき、それで何度スカートめくりをしたことか。誓って言うが、あれは全て本意ではなかった。誰に訴えてんねやわからんが、そんなことはどうでもいい。虫が近くにいると、手が脳の指令に逆らって虫の方に向かってダッシュする。つぶしたらよけい気色悪いやんかいさ。だから、虫が恐いというようになったんだろう。

それに付随して、タコ、イカ、ナマコのような軟体動物も嫌だ。ほんまに見た感じ、気色悪ない? 昔、中島らもさんが言うてはったけど、タコなんか、海におるからまだええねん。あれが陸におってみ、一人暮らしのもんが晩遅うに自分の部屋に仕事から帰ってくる、疲れてベッドにバタッと倒れこむ、ほんならベッドの下からタコがヌッと出てくる、こんなん「きゃっ、ゴキブリ!」どころの騒ぎちゃうで。

だから、軟体動物はあまり食べない。たこ焼きやスルメは何とか食べられる。子供のときからの習慣というのは恐ろしいものだ。ちっちゃいから、まだ、軟体動物を食べているという意識がなかったんだろう。その食性がずるずると。でも、あまりに大きいタコが入っているたこ焼きには、大いに抵抗がある。

子供の頃、しぼんだ風船も恐かった。急に風船て唐突だけど。これも関係あるよ、絶対。張り切った風船は全然大丈夫なんだけどね、空気が抜けてくると、しぼんでしわしわになってくる。あの引きつったような1本1本のしわの筋がある、ぶよぶよとした物体。あれは完全に軟体動物だ。風船で遊んで数週間して忘れた頃、部屋の隅、テレビの下なんか、昔のテレビ台はラックになってなくて4本足が付いた、今のラックと同じくらいの高さのテーブル状だったんだけど、そのテレビの下にちょっとほこりを被った、その軟体動物が生息している。テレビの下によく本なんか積んでたから、その後ろに隠れて。本をのけたときに奴を目撃した日にゃ、もう確実に泣いてた。

子供のとき、風船で泣いたことがもう一つあって、それが「トッポジージョのボタン戦争」という映画。トッポジージョはネズミのキャラクター。若い子は知っとんかな、今もあるかどうかわからない。わたいが子供のときにはやったイタリアのあやつり人形。当時はキャラクターグッズなんか出回って大ヒットした。

この映画は日伊合作かな。市川崑監督。何でも撮らはったんやね。ファミリー映画だけど、冷戦下の核兵器への恐怖も盛り込んでる。

真夜中、眠れないジージョが都会の街を散歩。赤い風船と出会い、友達になる。この風船は自分の意思で動く。この二人が国家的事件に巻き込まれる。ある銀行に保管された核兵器の発射ボタンを狙う某国諜報員が金庫のドアを破壊しようとしているところに遭遇して、二人がこの計画を阻止する。ジージョが風船に高い机の上に上げてもらって、電話で警察に通報したりね。子供のとき1回観たきりだったから、これを書くためDVDを借りたんだけど、記憶力のほとんどないわたいにしては、奇跡的にけっこう正確に覚えてたわ。

銃撃戦があったりして、そこでも二人は活躍するんだけど、その活躍に警察は気が付かない。二人が世界を救ったのに、誰にも認めてもらえず、挙句に風船は踏まれて割れてしまう。ジージョはドロドロになった割れた風船を家に持って帰って、石鹸できれいに洗ったげ、部屋の壁に貼る。「もうジージョは一人じゃない」でラスト。幼少の「Y」のたにっちYは映画館で号泣よ。はい、昔から、よく泣いてました。

このときは知らんかったんだけど、この映画は「赤い風船」という映画にオマージュを捧げたもの。「赤い風船」は絵本にもなってるんやね。そういえば、この絵本の表紙はなんや見覚えがあるような・・・。有名な絵本なんやわ。

「赤い風船」は50年以上前の40分足らずの短編映画。これがカンヌのパルムドールという最高の賞を取っている。短編がパルムドールを取るというのは、今の感覚では快挙。当時ではどうだったんだろう。まだ生まれてないのでわからない。ぎりぎり、生まれてないと書けてよかったよかった。

これがニュープリントで去年、カンヌに出品された。同一作品がカンヌに2度出品されるのは初めてのことなんやと。それが今、上映されているので行ってきた。

なるほど、トッポジージョのんによく似ている。ちゃうわ、トッポジージョのんが似てるんや。少年と風船が友情で結ばれる。もちろん、核の脅威というようなシリアスな社会的おっきな問題は出てけえへんけど。もっと身近な、少年が生活していく上での、意味のない社会のルールみたいなんは出てくる。風船といっしょにバスに乗れないとか。

いたずらっ子たちが少年から風船を奪おうとする。少年は風船に逃げるように言うが、風船は少年が心配で、一人置いてはいけない。少年がいたずらっ子たちと揉み合っているとき、パチンコの弾が風船に当たる。ちょっとの間があって、風船から空気が抜けていく。この間がいい、間が。風船が自分の意思でしぼんでいったようにも思えた。

ほんで感動のラストは・・・っと、あんまり書いたら浜村さんになるのでやめとこ。大人だから号泣はせえへんけど、唇は噛んでた。

去年、これもオマージュを捧げた「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」も、本家の「赤い風船」といっしょにカンヌに出品された。今、上映中。ホウ・シャオシェンは好きな監督。これも行かねば。