わたなべゆうさん、牧口一二さん

わたいが彼と最初に会ったのは2年前だ。そうそう、淀屋橋の辺の銀行で落語会があった帰り。梅田まで一駅だから、いつものように電車に乗らずてくてくと御堂筋を北上。曽根崎通との交差点まで差し掛かると、どこからかギターの音色が。

横断歩道の脇で一人の男性がギターを弾いている。本当に優しい音色。辺りはオフィス街だから、勤め帰りのサラリーマンが数人、彼の前で聴いている。時刻は9時頃か。ほろ酔いのおっちゃんたちがとても心地よさそうに耳を傾けている。その景色と、おっちゃんたちの疲れを溶かしていく、心に響くメロディに涙が出そうになった。

家に帰ってネットで彼の名前を検索。彼のサイトに書いてることで印象に残ったことが一つ。

自分は歌が下手だ。だから、歌う替わりにギターを弾く。ギターで多くの人とコンタクトを取りたい。泳げなくても浮き輪があれば、どこまでも泳げるように。自分にとってギターは浮き輪だ。

わたいも歩けないけど車椅子がある。意思は何とか伝えられるが、ウィットのある言葉を言ったり、細かい感情の機微を言語で表現するのは言語障害のため難しい。でも、今こうやってインターネットを使って、文字で自分を表現できる。

車椅子とPCのおかげで彼に共感できた。

それからしばらくして、彼は路上演奏の主戦場を変えた。前のとこはサラリーマンのおっちゃんが多かったと思うが、ここなら若い人もたくさん通るし、ホンマに老若男女、様々な人が聴いてくれる。いろんな人に聴いてもらうのが彼の喜びだろう。わたいもここなら、大阪に行ったらほとんど必ず通るところなので、度々聴けるし好都合だ。

こないだは、スーツ着た、ガタイのいい、スキンヘッドのコワモテ男性がうっとり聴いていた。いい絵だ。

その彼が日曜日、わたいの家から歩いて10分のホールでコンサートを開いた。こない近いんだから行かなきゃね。

開演時間になる。200人ほどのお客はみんな、普通に舞台袖から登場すると思てたやろね。もちろんわたいも。ところが、彼は客席のサイドの客が出入りするドアから入ってきて舞台上へ。意外やったわ。客席から笑いが漏れてた。狙いやったんかな。それとも、ホールの構造上、そうなったのか。

これが彼らしい、いい掴みになったと思う。目線はいつも聴いてるみんなと一緒という路上の彼らしい。

いつものように心を和ませる音楽を2時間ゆっくり聴けた。いつもよりより素晴らしいと書いたら、彼は怒るだろう。聴いてくれる人が一人でも、何百、何千人いても、その一人一人を大切にギターを奏でる彼だから。でも、この日はちょっぴり光ってたけどね。

いつも路上では一人で弾いてるけど、このコンサートではベースとパーカッションを交えて3人で。人とのつながりを感じさせる、奥行きのある演奏だった。

それが終わって急いで繁昌亭へ。間に合うかどうかわからなかったので前売り買ってなかったしね。十分間に合ったので、行って当日券買ったら開場5分前。

その5分間で、繁昌亭前にいてはった珍しいお方を発見。牧口一二さん。教育テレビの障害者を扱った福祉番組に、どれくらいかな、10年くらいか、この3月までずっとレギュラー出演してはったお方。ご自身も車椅子使用者。障害者問題のコメンテーターの第一人者的存在。大阪の地下鉄の駅にエレベーターがあるのは、牧口さんが中心となって活動してくれたお陰だ。

「いつもテレビ拝見してました」と声をかける。前から薄々わかってはいたが、わたいは一般人より有名人の方が声をかけやすいようだ。声をかけるのに、別に何も用事がなくても不自然なことはないでしょ。開口一番が簡単だ。一般人に何か用事があって喋りかけても、言ってることが伝わらなかったら不審者になる。わたいは屈折したコンプレックスの塊なのだ。

繁昌亭に入っても、当然、車椅子席で横に並ぶので、ちょっと世間話をさせていただいた。この日ご出演の超爆さんのお知り合いだそうだ。伯鶴さんもお知り合いで、伯鶴さんは三国駅での事故後、リハビリを続けてはるそうだ。

わたいが足繁く寄席に通っていると言ったら「ご自身で落語しやはりませんのん?」と。ほげっ!何をおっしゃいますか。「作る方に興味があります」と答えたら「障害者の出てくる落語作らはったら」。

いやまぁ、とんでもないヘルパーさんの噺なら構想がないわけではなく、事実、とんでもないヘルパーさんは存在していたわけで、師匠の私落語のような形がもしできれば面白いだろうなぁと思ってるので「障害者が出てくるのも含めて、何かできたらいいなぁと」と言うと「含めてやなく、それを中心に。せっかくの武器やねんから」。

啓蒙落語のようなのを勧めてはるようだ。わたいに似合わんと思うけど・・・いちおう考えときます。

しかし、武器て! ここらへんのこと、もっとお話、したかったなぁ。障害者だからわかる、見えてくる事物、感情は、落語を作る上で得にはならないように思っとります。

あっそうだ、話が前後するけど、路上のギタリスト、わたなべゆうさんの音楽はここで聴けます。http://www.myspace.com/watanabeyuu