あんびりぃばぼぉぉぉっ!

前号でお伝えした寿司屋「大蔵白仙」さんのご実家の様子がテレビで放送されるっちゅう件なんですが、放送されませんね。皆さん、「ごきげん!ブランニュ」をチェックしてはる方、いてはります? ごめんなさい。2代目ご主人によりますと、確かに収録には来たということなんですが。ボツなんでしょうかねぇ。「ずっと見とうねんけど、あれ、ボツ?」てな気の悪いこと、ご主人に常連さんでもないオイラがよう聞けません。

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今年の春、4月から毎週11回、毎日新聞に「兄貴は楽しい?ダウン症」というコラムが連載されました。ダウン症とは知的障害の一つです。書いてたのは露の団六さん。以前、ラジオ関西でニュース番組のレギュラーを持ってはったこともある噺家さんです。障害者で落語ファンのオイラとして、これは見過ごすことはできません。

1回目を読みました。「アホが治るんやて」「そんなアホな」(ちょい略)「アホ言うもんが、アホじゃ」 書き出しはこうです。引き込まれました。ツカミはOKです。

団六さんの2歳上の兄はダウン症。団六さんが10歳のとき、ダウン症が治るという薬が発明されたというニュースが流れた。両親は兄を連れて、薬を発明したという先生に会いに行く。団六さんは不安。今まで、兄をプロレスの技の実験台にしたり、おかずや小遣いをパクったりしているので、兄が治れば、復讐されるのだ。でも、もちろん心配は杞憂に終わる。兄も治らなかったし、自分も試しに飲んだが、自分のアホも治らなかった。親は兄を不幸だと思うが、我々兄弟はこんなもんだと思う。これでいいと思う。

という内容でした。

毎週、これは障害者の家族でなければ書けないという文章が続きました。ホンネで書かれていて、オイラも共感することばかりでした。(オイラは家族じゃなく本人ですが)

団六さんは兄をアホって呼びます。「関西だったら、兄弟をアホって言うでしょ、普通」と、さらりと流します。障害者という呼称すら、カッコつけてるようで好きでないというようなことも書かれてます。

その障害者という呼称が「障害」という言葉に負のイメージがあるとし、団六さんとはまったく正反対の理由で、真逆の方向に呼称を替えようと言っている人がいます。

「チャレンジドと呼ぼう!」 なんですか、それは。障害者はいつも何かに挑戦しとかなあかんのですか。それを強要されなあかんのですか。そんなしんどいのん真っ平ごめんですわ、とオイラは思うのです。

団六さんはご自身にお子さんが生まれるとき「ダウン症はいらんで」と思ったそうです。同時に「よそに行くんやったら、うちに来い」とも思ったそうです。そして、生まれてくる瞬間には「生きとりゃええ」と思ったそうです。

オイラも、子供が生まれるとき「五体満足で丈夫な赤ちゃんを」と願う親は好きではありません。「幸せな人生が送れる赤ちゃんを」と願ってください。

8月1日、団六さんの師匠の露の五郎師匠の落語会に行ってきました。夏といえば怪談噺。五郎師匠は怪談噺の名人でもあります。目当ては、その怪談噺と団六さん。団六さんも出演してはったんです。

開場前、会場の前の通路にオイラはいました。オイラの前に吸殻入れがありました。ちょっと経って、そこに一人の男性がタバコをくわえてちょっと一服。

「あわわわわぁ・・・」 団六さんです。声を掛ける絶好のチャンスです。「ずっと読んでました。共感しました。ファンです」と言わなきゃいけません。ところが、オイラは生粋の緊張しぃ。緊張しまくってます。

でもでもでも、こんな願ってもないチャンスを逃したら、オイラの自己嫌悪は無限大の深みにはまっていくことでしょう。その間数秒だったと思いますが、意を決して、声を発しようとしたそのとき、もうすでに団六さんはどなたかと野球談議に花を咲かせてはりました。(余談ではありますが、野球談議とはいえ、阪神の話題ではなく、ロッテの話題でした。マイナーだ!シブイッ!)

本懐を遂げられず。ム、ムネンじゃぁ。結局、声を掛けそびれたオイラは、その日から悶々、悶々、悶々・・・と。

悶々は続きましたが、そんなことばかりしていても明日は開けないので、一応、することはしとこうと思い、団六さんのHPの掲示板に、声を掛けようとしたという事情と、今度あんな機会に恵まれたら、一言でも二言でもお話がしたいということを書き込みました。

それから10日後の11日、悶々も薄れてきたオイラは、いつものように「映画行こっ」と思い立ったのでありました。いつものようにJRに乗り込みますというと「ん、どこかで見かけた顔だなぁ。誰やったかなぁ」っちゅう人がオイラの前に座っていました。小学生くらいの男女のお子さんを二人連れて、大きい旅行カバンを持ってはりました。ラフな服装でしたし、お盆休みで、きっと海かどっかに行かはるんでしょう。ずっと、誰やったかなって考えてたんですがね、もうちょっとで出てくるのにぃって感じでした。

しばらくして、次の駅で降りるって段になって、その人が連れていた男の子の方の顔が初めて見えたんです。それまで、その子、ずっと窓の外を眺めてたんで、顔がわからなかったんです。

「えー、団六さんにそっくり! げっ、ちゅうことは、あぁぁぁ〜〜!?」そこで初めてわかったんですよ。その人、団六さんだったんですぅ!?

キャップをかぶってはって、服装も全然イメージと違ってて、第一、あの一件があって10日後ですよ。10日しか経ってないのに、偶然オイラの目の前に座ってはると思いますぅ? まさかそんなことが起こるとは夢にも思わんでしょう。ひと月もせんのに直角ジイサンに二度会ったことより、もっともっとびっくりです。

そして、ご本人の顔を見てわからんのに、お子さんの顔を見てわかる、そんなアホなぁ!っちゅう信じられん話なんですが、これが本当の話っちゅうところが、またまたびっくりなんです。

普通だったら、こんなん感激の出会いです。ぐぁっ、問題はまだ話し掛けてないってことぉぉぉっ!

しっかし焦りました。もうすぐ降りなあきませんもん。あの件があってこの日でしょ。二度続けて話し掛けられんとなると、自分で自分に人間失格の烙印押さなきゃなりません。でもね、それまで話し掛けてないというばつの悪さもありますでしょ。そしたら、すぐに降りる駅ですわ。団六さん親子も同じ駅で降りはるご様子です。「∞※♯∂≒♂〆・・・」(文字化けじゃありません) 心の中で声にならない声を叫びながら、とうとう、この夏一番の稀有な出来事は過ぎ去っていったのでありました。

夏も終わりになって、遅ればせながら今はちょっと暑いですが、この夏は全般的に冷夏。その冷夏に拍車を掛けるようなさっむーい心持ちになったのはいうまでもありません。

後で、また、このことを掲示板に書き込みましたところ、団六さんも前に車椅子のモンがおるなぁとは思ってはったようです。ただ、話し掛けて来んので、こないだの書き込みの奴だとは思わなかったようです。もちろん、10日しか経ってないのに、そんなアホなぁ、っちゅうのもありますしね。

それともう一つ。団六さんのお返事でわかったんですが、電車の中でかぶってはったキャップ、昔のロッテの帽子だったんですって。そのとき、それに気付いていれば、もっと早く団六さんだとわかったかもしれない。あぁ、そう思うと、なんともはや悔しいガーナチョコレート!

*「兄貴は楽しい?ダウン症」は加筆され、単行本になるそうです。絶対オススメです。