心斎橋から十三へ〜3本の指と自制心と寂しさのつれづれに〜

一週間前、映画のはしごをした。この頃、はしごをすることが多い。いっぺんの外出で済ませた方が電車賃、得? 醤油うこと!

心斎橋で「同窓会」。師匠のお友達の宅間さんの映画。脚本、監督、主演の一人三役。主宰している東京セレソンデラックスの舞台も一人三役してはる。凄いパワーのお方だ。師匠ももちろんそうだし、師匠の周りの方々もみんなパワーがみなぎっている。

こないだ観た舞台もそうだし、この映画も心があったまる。わたいは主人公とは全然違った青春時代を歩んでいる。だのに、それでもなぜか懐かしく、胸がキュンとする。おっさんがキュンとなるのも気色悪いが、そんな気色悪い現象を起こさせる、宅間さんは不思議な方だ。

泣き笑い、人情話でもあり、滑稽話でもある、こういう作品は大好きだ。この映画では落ちが途中でわかってしまうんだけど、そんなことは関係ないね。何度も聴いて落ちを知り尽くしている古典落語でも、客は興をそがれることがない。

師匠もちょこっと出てはる。主人公の父親役で、主人公の高校時代の場面では、師匠が画面に登場した瞬間、館内大爆笑。理由は・・・また、どっかで映画を観てちょーだい。

それが終わって、今度は十三の映画館。上映まで2時間以上、間がある。まず、心斎橋からトコトコトコトコ一駅歩いて(「歩いて」といっても車椅子だからしんどくない)難波は松竹座。来週の狂言のチケットを買う。ちょっとお高いので泣きながら買う。お高いがしょうがない。京極夏彦さんの「豆腐小僧」に続く妖怪狂言第2弾もあるし、50年以上前に上演された幻の舞台の再演もある。他の狂言会二つをパスして、これに行く。

チケットを買って、今度は難波から地下鉄で西中島まで。梅田で阪急に乗り換えるルートもあるが、西中島まで。西中島近くになって、地下鉄は地上に浮上し、浮上しきって空中鉄になるが、今のわたいはそんなことでは驚かない。http://d.hatena.ne.jp/tanich/20060904 ふふふっ、甘く見てはいけないぜ。もう、そんなおぼこじゃない。それ以上わたいに近寄ると火傷するぜ。

普通なら西中島から阪急で十三なんだろうけど、やはり一駅だし、しんどくないので、トコトコ歩いて十三へ。時間もだいぶあるし。

十三までの道は一直線なんだけど、フラフラァフラフラァとね。時間もあるし、寄り道しながら。

将棋の駒が書いてある看板が。将棋道場、こんなとこにあるのね。と思たら、なんや他にも書いてそう。近寄ったら笑ろた。将棋、囲碁、どっちも教える。ここまではどこにでもある。弓道居合道? ここは何でもこいか。究極が、手裏剣道に吹き矢道!? そんな「道」あるの? 「初歩から丁寧に教えます」。教えてほしい。2階で階段だから覗けなかった。誰か、リポートしてくれ。

十三ミュージック→」の看板見つける。「→」の方に道が2本ある。フラフラァフラフラァとね。片方の道を行ったんだけど、どうもこっちはなさそうだ。引き返そうと思ったら、顔に細かい雨粒がピッピッと。そこでふと我に返り「わたいは何をしているんだ!」泣く泣く十三ミュージックは断念して、映画館の方に先を急いだ。この「我に返り」と「泣く泣く」は若干矛盾しているようにも思えるが、細かいことは言うてくれるな。

結局、雨はそのピッピッだけだった。でもまぁ、そのときはそんなことはわからないし、そのまま前へ進む。自制心強いでしょ。

十三商店街まで行くと、総菜屋の前で将棋をしていた。縁台将棋だ。雨の心配はあったんだけど、その時点でまだ1時間はあったし、実際に目の前で行為に及んでいると、つい覗いてしまうのが人間の情。立ち止まってしばし観戦。

わたい、強いです。三段の認定証持ってます。あっ、それ以上は聞かんといてください。「若いとき空手もやっとってんぞ。まっ、空手いうても・・・」の類いです。

で、10秒でわかった。このお二人かなりの初心者。右側の方が連勝してるんだけど、力の差はほとんどない。ほな、何で連勝してるかというと、ある初歩的な戦法を知ってるから。1局10分くらいの早指しでやってはって、戦法はずっとそれ。左側のお方、もうちょっと工夫すればいいのにと思ったが、まぁ和やかなムードを楽しんでるんだから、それもまたよし。

わたいの横で二人のおっちゃんも観戦していた。お二人の会話に、わたい、びっくり仰天。「左の人、中国将棋で、日本で3本の指に入る腕前なんですわ」。えっえぇーーー!?ウソでしょ。いや、中国将棋は盤の中央に川があったりして、日本の将棋とルールは違うんだけど、将棋は将棋。3本の指に入るいうたら、そうとう勝負にシビアな人ちゃうのん。そんな勝負に真剣な人が、何でこんな和やかなムードで縁台将棋で連敗してるの?

3本の指に入ると言われて、左の方は真面目に謙遜していた。先の道場といい、3本の指といい、十三の将棋事情は謎に包まれている。

時間も程頃合いになったので、霧に包まれた十三将棋界から退散し、映画館に。

ちょうどええ時間になるまで映画館に近づかなかったのには理由があるのよ。映画館のある通りにはいろんな店があるのよ、いろんな店が。いろんなってどんなんやって、いろんなはいろんなやわいっ!

そやから、お金もあんまり持たんと行ってんで。そんなん、時間はあるわ、お金はあるわ、いうたら、ついフラフラァと、そのいろんな店に入ってまうでしょうが。所持金6千円。これやったら大丈夫やと思とったら、この考えは甘かったね。

見学コース2,800円! 何を見学するんや?

初体験コース3,900円! な、なんなんだ?

お金はある。ただ、時間がない。十三将棋界のお陰でわたいの貞操は守られた。こんな自制心のあるわたいに、誰か惚れてくれ!

十三で観た映画は「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」。9月1日の日記に書いた「赤い風船」という映画を、わたいの好きなホウ・シャオシェンが自分なりに解釈して作ったストーリー。「赤い風船」でアルベール・ラモリスが描いた世界を、人間のリアルな日々の営みに溶け込ませて淡々と描いている。

人が生きていくのに何が必要か。誰かが横に寄り添ってくれること。別に何もしなくていいから、ただ添って歩いてくれる人がいたら、それだけで幸せなんじゃないかなぁって、わたいは思った。「赤い風船」で、風船は少年に何にもしないんだもん。ただ、少年といっしょに歩くだけ。それだけで少年は幸福だった。

もう一度叫ぶ。誰か惚れてくれ〜〜〜