たにっち、ついに警察の厄介になる!

とうとう・・・

これでわたいも男に箔が付くというものだ・・・

先週の金曜、竜野に行く。志の輔独演会だ。けっこうな地方都市だ。けっこうな地方都市(都市か?)へは、翌土曜も能勢で独演会があった。能勢の方は、わたいは行くのが無理だ。駅降りてからバスで30分だ。バスは乗ったことがないし、乗らんとてくてくもできない。距離があり過ぎて、てくてくだけで日が暮れる。正味、山道だ。イノシシやクマが出る。もっ絶対、わたいは泣く。

竜野の方は駅降りて徒歩20分やしね。

けっこうな地方都市へは以前、小朝独演会で福崎に行っている。電車は単線だった。帰り、晩の9時頃にも駅員さんはいてくれたが、あれは多分、わたいが帰るからではないかと思う。普段は無人駅だろう。

竜野に行く前にネットで駅のことを調べる。行きは電車を降りて段差なしで駅出口から外に出られる。帰りが問題だ。単線でないので向かい側のホームから電車に乗らなくてはならない。駅出入口から向かいのホームへは階段の上り下りがある。

普段、外出前に鉄道会社に電話しないが、この日の場合はしといた方がいいと思い、電話。無人で階段で、その上、客もいなかったら、対処策を相談する人もなく、一人で途方に暮れてしまうから。

本竜野駅なんだけど、姫路行の電車が9時14分と40分に出る。独演会の開演が6時半だから、9時40分のに乗ると電話で言った。すると、いちおう階段上り下りで渡り通路を通らなくても、向かいのホームに行けると言う。スロープがあって、線路を渡って・・・というような説明だったので、わたいのイメージとしては、駅構外の踏切を渡って向かいのホームに行くのだと思った。そういう駅はときどきあるし。

ただ、電話相手のお勧めは9時14分発のだ。14分のは姫路から本竜野に着いた電車が折り返して姫路にまた戻る。だから、乗車ホームは向かいのホームでなくてこっち側だ。向こうは安全面から線路を渡るのは勧めない。会社としてはそりゃそうだろうけどね。

さぁ、これが9時発とか5分発だったら、迷わず40分発にしてくれと言うんだけどね。9時14分て微妙でしょ。6時半開演で2時間ちょっとして8時45分終演なら、徒歩20分だから間に合うんだよね。以前のけっこう地方都市の小朝独演会が2時間ちょうどくらいだったというのも頭にあった。それで14分のでいいと言った。ほな、その電車に簡易スロープを積んでいくということで話がついた。

小拍子がチョンと鳴って、場面は本竜野駅。今から赤とんぼ文化ホールへと向かう。徒歩20分と書いてはいたが、実際何分かかるか確認しとかなくてはならない。時計を見て駅をスタート。

まーんまかまかまんまんまかまかと進んで(昔の仁鶴師匠か?)ホールに到着。所要時間22分。帰り、8時50分に出たらギリギリか。

ホールに着く一歩手前、もうホールの建物は見えてるんだけど、ホールの駐車場の入場ゲートがあって、警備員が赤く光る棒持って、客の車を誘導していた。わたいを見て「入る?」と聞く。そしてすぐに「向こうからにする?」と言った。入場ゲートは二つあるようだ。建物はまだ先にあるので、もう一つの方から入ることにした。もう一つの方から入ったら、敷地内で逆戻りしたりして、遠回りしたように感じた。

チョン。さて、中入り。時刻7時40分。これが8時とかになってたら、ホールの人に、ちょっと早く出たいから8時45分になったら案内しにきてくれと言うつもりだった。そんなん、落語中に車椅子のもんがドアを開けようとしたら、目立って雰囲気ぶち壊しで師匠の落語がワヤになる。7時40分なら、中入り休憩15分として、取りの1席がたっぷり50分あったとしても間に合う計算だ。まぁ、50分もやらはらへんだろう。

休憩後、幕が上がると、ありゃりゃ!女性が三味線持って座ってはる。内海英華さん? ちゃうちゃう。吾妻ひな・・・これは古いから書かんとこ。この日の下座(お囃子さん)の方だそうだ。本職、長唄三味線だそうで、せっかく、あまり来る機会のない、けっこうな地方都市に来たんだからと、本職の紹介。

お名前を松永鉄六さんという。ん?女性? 女性です。アジャみたいなごっつい感じの女性やない、普通の華奢な女性です。

長唄は元々、歌舞伎の舞踊の伴奏音楽で、その情景によっていろんな曲想がある。華やかな曲、しっとり落ち着いた曲など、いくつかサンプルを弾いてくれはった。

そして、恐怖感をあおるような曲もあると弾いてくれた曲の途中で・・・。

これ以上はネタバレになるから書かんとこ。衝撃のサプライズだ。いっぺん大きなホールの舞台でこれをやりたかったと言ってはったが、たぶん持ちネタの必殺技にしてはるんやろう。

・・・そんなことを言うてる場合ではない。わたいのホールでの寿命が迫っている。せめて鉄六さんの舞台が終わってから、車椅子席からドアの前まで移動しといたら、最悪でも、まだ他の客に目立つことを最小限に抑えて、師匠の高座途中で退出できたかなぁと思う。中入り時に時間が押してたら、移動もしとくつもりだったんだけどね。なんかウロが来てて、それができなかった。

師匠の取りの根多は「八五郎出世せず」。わたいの好きな落語1、2位を争う素晴らしい噺。これ、わたいの寿命の残り時間に入るやろか。微妙、むちゃくちゃ微妙。

知ってる根多なので、進行を時計を見ながらチェック。あかんわ、こんなんしとったら落語を楽しまれへん。こっちの都合で楽しまれなかったら、師匠にも悪いやないか。

終盤、何とか先が見えてきた。ぎりぎりセーフだと思う。ホンマにぎりぎりだけど。

で「鶴の一声」で脱兎のごとく場内を出る。カーテンコールでもう一度、幕が開いたような気配だが、振り返る余裕はない。時刻8時50分。

ホール建物を出たら、行きしに警備員が「入る?」と聞いたゲートへ続くだろうルートが目に入る。どうしようか迷ってる暇はないので瞬時に決断。近道だろう方から出ることにした。

でね、ゲートを出たんだけどね、なんか違うの、辺りの様子が。こんな道通ったかっちゅう感じでね。

しまった! これ、知らんゲートから出とんねや! ゲート三つあるんか!?

このまま知らん道であがいても時間食うだけだと思い、引き返して行きし入ったゲートへのルートに戻る。えらい時間のロスだ。

間に合うのか? 間に合う可能性は低い。でも急がなくちゃ。急ぐといってもスピードは一定だし。走れないのが恨めしい。

あともう一息、駅寸前というところで、わたいが乗らなあかん電車が出ていくのが見えた。あーぁ・・・。まぁ、時計見ながら急いでたので、この時点ではもうほとんど諦めてはいたけど。

駅に着いたら9時16分。時間ロスがなかったら間に合うとんやがな。知らん近道行こうとしたのが最大の間違いやった。

ひょっとして駅員がいるかと思ったがいなかった。さぁ、どうしましょう。40分発の次の電車には乗りたい。あと20分ちょっとで向かい側のホームまで行かなくてはならない。

とりあえず、家を出る前に電話で聞いた踏切を探すしかないわな。近くにいた男性に事情を話して、踏切はどこか聞いた。わからなかった。だけど、こちらの困った様子を見て、駅前に止まっていたタクシーの運ちゃんに聞いてくれた。

近くに踏切はないと言う。ん、どういうこと? ないて、なかったら困るがな。

男性が運ちゃんにも事情を説明した。「困ったときは警察。そこに交番があるから行ってみ」と運ちゃん。ある種、道理だ。

駅の隣にある交番まで男性がついてきてくれた。こんなけっこう地方都市の夜の駅に車椅子がいるというのはけっこう不審だろう、何しに来たか聞かれたので、包み隠さず、落語聴いてて乗り遅れたと答えた。「アホか」とは言われなかった。いい人だ。

交番は巡回中で空だったので、男性が交番の電話でホンカンさんに連絡してくれた。わたい一人だったら連絡できないので、ない踏切探して辺りをさまよったかもしれない。本当に親切ないい人がいて助かった。

5分ほどしてパトカーが。その間、男性もいっしょに待っててくれたからね。ここでほっとくのはなんや気になるっちゅう感じでしょね。

この時点ではもう9時40分発には間に合わなくなっていたが、警察来たら、まぁ何とかなるでしょう。などと悠長なことをいってるが、これ、冷静に考えたら、凄いことになってる! えらい大掛かりな事件になってる! パトカー2台来てるもん。村の駐在さんが自転車えっちらおっちらこいで交番に戻ってきたんちゃうよ。パトカーから出てきたんが防弾チョッキ着たポリスメ〜ン。ホンカンさんでも駐在さんでもないのだ。

おしっこ3滴ちびっていたわたいの代わりに、また男性が説明してくれて、気がついたら男性はいなくなっていた。ポリスメ〜ンが来たら、もう安心ということで。締めの「ありがとう」言うてないがな。ナイトスクープに人探し依頼せなあかんな。

次の終電は10時44分なので、1時間余裕がある。4人のポリスメ〜ンに連行されて駅に。強面の方もいれば当たりの優しい方も。でも、喋るとみんな優しい。おしっこちびって損した。

とりあえず、鉄道会社に連絡。まぁ、最悪、終電の時間が迫ってきたら、階段の上り下りを手伝ってもらえる人数はいてくれているので、安心安心。

チョン。ちょっとして、どなたかが駅に来た。ホールの人だ。なんで???

そのときはわからなかったが、家に帰ってなんでかわかった。9時14分発の乗るはずの電車にわたいが乗れなかったので、鉄道会社が家に電話したらしい。で、家からホールに「車椅子の客、ホールを出ましたか?」と。それで心配して見にきてくれたんだ。ホンマ、人騒がせな事件になってしまった。「無事でよかった。これに懲りんと、また来てください」と言ってくれた。

チョン。「スロープがあって線路を渡って」の意味がわかった。ホームのずうっと端っこのところにロープが張ってあって、そのロープを外すと、その先がスロープ状になって下っているのだ。で、線路と水平の位置まで降りて線路を渡る。向かい側も同じ要領になっていて、スロープを上ってホームの端っこにたどりつく。

駅構内に踏切があるようなものか・・・。そんな駅、わしゃ見たことないがな!

ロープは駅員か乗務員でないと外せないんだろう、10時を過ぎて姫路方面から来た、わたいが乗る逆方向の電車の運転手が外した。

向かい側のホームに渡ってからも、ポリスメ〜ンはいっしょにいてくれた。乗りかかった船だしね、電車に乗るのを見届けるまではね。

まっ、いちおう、名前と住所は聞かれました。しっかり、ブラックリスト?に載ってることでしょう。

八五郎出世せず」はこんな噺だ。大工の八五郎の妹、つるが殿様に見初められて側室になる。そしてお世取りが産まれる。目出度いので八五郎が屋敷に呼ばれる。

省略するのが心苦しくもったいないので、ぜひ一度聴いてほしいんだけど、まっ、なんやかや八五郎と殿様のやり取り(といっても、ほとんど八五郎が喋っているが)があって、殿様が何でも望みの物を取らせてやると言う。普通だったら金銭的なことを考えるところだが。

母親が初孫が産まれたと言って喜んでいる。長屋のみんなもドンチャン騒ぎをして祝ってくれている。しかし、孫の顔を見たこともない母親が不憫だ。一度、母親と孫を会わせて抱かせてやってくれないか、と答える。

殿様は「一度といわず、母親もこの屋敷に住まわせてやる」と言う。その八五郎の返事が・・・。

それは駄目だ。それは困る。母親には長屋の井戸端が必要だ。井戸端がなかったら生きていけない。井戸を掘ってとか、そんな問題じゃない。隣近所の連中が、めでたいことがあったらいっしょに喜んでくれ、よくないことがあったらいっしょに悲しんでくれ、そんな中で母親は生かしてもらっている。母親を屋敷に住まわすということは、長屋の連中ひっくるめて井戸端ごと持ってこなくちゃいけない。そんなことできないでしょ。

そう、わたいもみんなに生かされて生かしてもらってます。皆さん、ありがとう。まだ見ぬあなたもありがとう。人とのつながりを大切に、これからも皆さんにおんぶにだっこで生きていきます!(こんなんでええのか・・・)

ところで、こんな長い日記、よう読んだねぇ・・・