わわしい母子

日曜、狂言に行く。狂言の公演では9割方、車椅子客はわたい一人だが、この日は横にもう一人。二十歳そこそこの茶髪男。母親が連れてきている。まっ、別に「親子?」と聞いたわけではないが。

狂言会はだいたい、まず初めに出演者の方お一人が出てきはって、その日の演目の解説とかを面白おかしく喋ってくださる。そのとき、茶髪男が母親に何やら喋っている。言語障害で何を言ってるか聞き取れない。うっさいのぉ・・・

一曲終わって休憩。わたいはすぐに5月の会のチケットを買いにロビーへ。席に戻ると、母親が茶髪子に小声で喋っている。小声だけど凄い剣幕だ。

「私をなんや思とんのん!」この言葉は何回も繰り返し出てきた。「初めに何であんなこと言うのん。どない思てあんなん言うたん」そこで茶髪子が何か言ったが、何を言ったかわからない。「そんなん思うんやったらあんなん言われへんわ。私も楽しも思てここに来てんねんで。あんたのおかげでいっこも楽しないわ!」

小声の怒声は情緒がある。

そのあと、よほどイライラしているらしく、席を立ってはちょっとして戻ってくるを何度か反復していた。

おそらく、おもろないとか、退屈やとか、ホンマは来たなかったとか言うたんやろね。狂言はわかりやすく言えばコントだから面白いんだけど、それはまぁ別のお話として・・・。

場の状況を考えず、言った茶髪子も茶髪子だが、行きとうもない子を連れていった母親も母親だ。茶髪子はいらんことも言えるんだから、自分が行きたいとこくらい言えるだろう。そこ連れていったれや。

さてさて、人間国宝、千作先生、90歳にならはって、このところ、立ったり座ったりがきつくなってはる。で、素狂言という形式で舞台を務めることも多くなった。これは千作先生のためにできた形式で、出演の役者さんが黒紋付と袴姿で切戸口から出てきて、2、3人で舞台に座り、台詞だけで進行する狂言。ちょっと違うけど、何人かでする落語のような感じといえばわかりやすいか。

千作先生、この日はホールだから切戸口ではなく、袖から出てきはって、舞台の中央で「ドン!」と座らはる。そうでもないんだろうけど、音だけ聞いたら痛そう。ホンマはあかんのはわかってるけど、そこはそれ、人間国宝、お座布敷いたげてくださーーーい。

この日の演目は「栗焼」。台詞だけで進行すると書いたけど、さすが千作先生。表現豊かな所作。千作先生の焼いた栗、メチャおいしそう。1個ちょーらい。