三題年賀状(封書にて)
びっくりしました? 封書でも年賀状です。昨年お休みした三題年賀状をまたやってしまいました。例年、私の年賀状は字数が多く、よって、文字が小さいのが難点。特に三題噺をやるとなったら、究極の小ささとなって、自分でも解読困難。それを解消するには封書しかない!(そこに気づいた私はエライ!)
昨12月に私のブログhttp://d.hatena.ne.jp/tanichで皆様からお題を募り、今回は桂む雀師匠にお題を三つ選んでいただきました。師匠は5年前に病に倒れ、それから懸命なリハビリに励んで、昨夏、落語ではありませんが、ハーモニカで舞台復帰を果たされた、時の人です。
選んでいただいたお題は「オバマさん」「ご褒美」「あっかんべー」です。この三つを織り込んで落語を作るのでありますが、はてさて、どうなりますことやら。
なお、桂九雀師匠には、む雀師匠との取次ぎをしていただき、大変お世話になりました。両師匠にお礼申し上げます。
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「リチャードよぉ」
「スティーブよぉ」
「よぉ照りよるのぉ」
「よぉ照りよるのぉ」
「もう40日続いての日照りじゃぁ」
「もう40日続いての日照りじゃぁ」
「アーカンザス川の流れも少のぉなってきよったし、田んぼもひびぃ入ってきよったぞぉ」
「ひびぃ入ってきよったのぉ」
「しっかし、こぉオウム返しの世間話しとると雨乞い源兵衛が出てきそうじゃな」
「出てきそうじゃな」
「『きそうじゃな』ておめぇ、雨乞い源兵衛知っとるんかぁ」
「いんや、知んね」
「おめぇ、知りもせんのにええ加減なことこくなぁ。雨乞い源兵衛ちゅうたら雨乞いの祈とうができると間違われた男が出てくる落語だぁ。あるえれぇ作家のせんせが作りなさったんじゃ。おもしれぇぞ」
「おもしれぇか」
「おもしれぇ。今度機会があったら聞きにいってみっか」
「聞きに行く、聞きに行く」
「これだけ上手しといたら、またなんぞええこともあるだろ」
「おめぇ、誰に言ってんだぁ」
「独り言だぁ」
「独り言かぁ」
「ちょっと改行せんと行詰めるぞぉ」「なんでだぁ」「紙ぃもったいないでのぉ。節約じゃぁ」「おぉ、そうすべぇ、そうすべぇ」
「じゃけど、土ぃ耕す暮らしもええが、こぉおてんとさんに左右されてたんじゃ、おらたちの暮らしもいっこうにらちがあかんのぉ」「らちかんらちかん」「ここらでパァッと銭の儲かる仕事をしてぇもんだ」「してぇしてぇ」「なんぞないかのぉ」「なんぞないかのぉ」
「しっかし暑いのぉ」「あっちぃあっちぃ」「こぉ暑いと頭も回らねぇな」「回らねぇ回らねぇ」「酒場でビールでも飲んでくっか」「行くべ行くべ行くべ」「おめぇはのいるこいるかぁ」
導入部だけで1枚使ってしまったわけでございまして「らくだ」のように1時間の噺を書いている場合でもございませんので、ここからトントントンとテンポアップするのでございます。はっきり言って不完全作なのでございます。
場面換わってここは酒場。「あんれまっ、カウンターの端っこさで酔いつぶれてる男さ見てみれ。ありゃ、オバマさんじゃねぇか」「まさかぁ。でぇ統領がこんなアーカンソーの片田舎に・・・。おりょ、確かにありゃ、オバマさんかもしんねぇな。けんど、なんでまた」「そりゃおめぇ、でぇ統領にも長期休暇っちゅもんがあるんでねぇか」「だけんど、アーカンソーはクリントン様の出身地だで。クリントン様の奥方ぁヒラリーじゃて、言ってみたら敵地じゃねぇか、アーカンソーは」「そりゃむっかしから言うでねぇか。昨日の敵は京本政樹ってぇ」「へぇそうかぁ。あれはやっぱり京本政樹かぁ」「馬鹿こくでねぇわ」
「けんど、酔いつぶれてるところをみると、何か嫌なことがあったのかもしんねぇな」「そっかぁ。おめぇ、いいところに気がついたな。不幸なことがあったといったら、ありゃぁタイガー・ウッズかもしんねぇ」「いっぺん本人に聞いて確かめてみるべか」「やめとけぇ、無理に起こして絡まれても厄介だぁ」「いんや、おら聞いてみる」「やめとけやめとけ」
スティーブが止めるのも聞かず、リチャードが男に近寄り、揺り起します。「モシモシ、アナタハオバマダイトーリョーデスカ」「リチャードよぉ、ちょと待てちょと待て。なんでおめぇ、片言な言葉になるんだぁ」「そりゃぁおめぇ、相手はげぇこく人」「ちょと待て〜ぃ。おめぇとおらは何人だ」「そりゃアメリカ人」「そこに寝てるのもオバマさんだったらアメリカ人だな」「そだぁ、それがどうかしたか」「今ぁおらたちが喋ってんのは田舎訛りの日本語のよだが、ほんとは田舎訛りの英語だぁ。だったら普通に喋ったらいいんだべ」「あぁそうかぁ」
なんや訳のわからんことになってます。傍でガヤガヤと騒いでるものでございますから、ようやく目を覚ましたこの男、オバマさんですかの問いに、酔っ払いが寝ぼけ眼で訳もわからず、つい「イエス」
「スティーブよぉ、やっぱりこの人はでぇ統領だぁ。おらぁ、ちょっくら、オバマさんをうちさ連れて帰るべぇと思とるぅ」と言うが早いか、リチャードは男を引きずるようにして酒場を出ていったのでございました。「おめぇ、何するだ。手荒な事をするでねぇ〜」
テンポアップすると言いましたが、あまりテンポアップしておりません。ここからが本題に入るのでございますが、この調子で進んでいくと途方もない枚数になるのでございまして、掟破りの本題ト書きのみということになるのでございます。葉書に書ける字数制限から解放されて、アホみたいに気が大きくなったゆえの無残な結果なのでございます。構成のバランスも何にもあったもんやない・・・。
この酔いつぶれ男、大統領でも何でもなく、ただの放浪者なのでございます。顔もオバマにもタイガー・ウッズにも、もちろん京本政樹にも似てないのでございますが、舞台が片田舎ということで、村の連中は大統領の顔もよく知らないのでございます。アーカンソーにも開けた都会はもちろんあるのでございますが、あくまで落語ということで、アーカンソーの人、怒らんといてね。
さて、大統領ならば国民一人一人の悩み相談も受けなさいとばかり、何かいい事業はないかと切り出したリチャードに、偽オバマは観光事業はどうかとかええ加減なことを吹き込みます。ダイヤモンド掘りツアーや温泉ツアーはどんなもんかと。アーカンソーは掘ればホンマにダイヤモンドも温泉も出るのでございまして、落語とはいえ、ちょいちょい真実も入れるのでございます。
アドバイスしたご褒美に、嫁に取るなら夜逃げする方がましという、鬼瓦のおハンナぼぉをやると言われた偽オバマ、自分には妻子があると断ります。「そうかぁ、タイガー・ウッズなら妻子があろうが何人でも引き取るじゃろに」「タイガーでも鬼瓦は断るっちゅうねん」
「そういや、おハンナぼぉのうちは饅頭屋じゃったが、観光地といや土産もんだ。おハンナぼぉんとこで村の名産作ったらどんなもんじゃろかの」「米はあるか」「アーカンソーはアメリカ一の米の産地だ。これも真実だ」「餅米は」「作ろと思えば作れるじゃろが」「パサッパサの水けのない餡入れたあんころ餅を売ればいいわ」「そげな餡で旨いんかの」「餡乾燥ちゅうて」「・・・メモぉしとこ」「書くなっ!」「で、どげな名めぇにすればええかの」「アーカンソーの餅だからアーカン餅でどうだ」「アーカンもち、アーカンもち・・・。オバマさん、そりゃ駄目だ」「なんで駄目だ」「餅は『べい』とも読むじゃろ。アーカンもちならアーカンべい。アッカンベーしたら観光客に嫌われるでな」