竹葉亭

昔、神戸にも竹葉亭があった。鰻の店ね。父親がときどき買ってきてくれた。

わたいが知っている鰻で、ここの鰻以上においしいのはない。関東風で、蒸してから焼く。口の中でとろけるほど柔らかい。母親が「皮と身が箸で分かれるようではあかん」とよく言っていた。竹葉亭の鰻を食べつけているからだ。皮も柔らかいから、皮をはがそうと思っても、皮がちぎれて身と皮の区別がつかない。

こないだ、久しぶりに食べた。15年は経っているかなぁ。ホンマ久々だ。

カノジョと二人で行きました。張り込んだったぁ。落語行くとかの遊興費は自己負担なんで、たまにおいしい物をおごるというのも男のメンツです。

鰻丼とせいろ蒸しをわけわけ。これよ、これ!これが鰻なんよね。昔の感覚がよみがえるわ。とろけるっちゅうねん、ホンマ。せいろ蒸し、半端やなく熱かったけど、うまい! カノジョも今まで食べた鰻で一番おいしいと言ってくれた。

母親の最後の1ヶ月間、家で寝ているとき、母親が好きだった穴子弁当を何度か買いにいった。わたいにできることはこれくらいだった。100個買うてこいと言われたこともあったけど。肝臓病の末期になると、頭がはっきりしなくなることがある。母親は障害者の父母の会的組織の役員をやってたので、何かの催しで100個注文したこともあったんだろう。それが頭に残ってたんやろね。「店の人が、100個も持って帰るん大変やろからと言って、とりあえず1個持たせてくれた。あとはあとから届けてくれるわ」と言ったら、納得してくれた。

鰻や穴子が大好きだった。これが最後になるかもしれない鰻も買いにいった。竹葉亭がなくなってから、神戸でここが一番という店に。母親が元気な頃にも何度も食べてるし、まぁまぁ満足して食べてはいたんだけど。最後になった鰻も、文句を言わず、食べてくれたんだけど。

でもね、ベターではあるけど、ベストではないんだよね。竹葉亭の鰻を食べて、改めてそう思った。

あのとき、なぜ梅田まで足を伸ばさなかったのか、そこまで気が回らなかったことが、とても悔やまれる。

このお盆も出てこなかったな。わたいがビックリせんように、合図して出てきてくれと言ってるのに。